INGENERIC社製マイクロレンズアレイが「海の色」の測定に用いられたケーススタディ|株式会社 ティー・イー・エム プロリンクス製品部

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2019.09.17

論文

INGENERIC社製マイクロレンズアレイが「海の色」の測定に用いられたケーススタディ

マイクロレンズメーカーの独INGENERIC(インジェネリック)社が掲載した記事「Case study: How microlens arrays help measure the color of oceans」について、弊社で和訳した内容をご紹介します。
記事原文

Aachen, January 2019. NASAのPACEプロジェクトにおいて、軌道上の分光計は、「海の色」におけるいくつかの近接した波長範囲における光の強度分布を、これまでにないスペクトル分解能で測定します。INGENERICのマイクロレンズアレイは短波赤外線(SWIR)の受信光を高効率でガラスファイバーバンドルに結合する重要な構成要素を担います。

NASAは、PACE (Plankton, Aerosol, Cloud, Ocean Ecosystem)ミッションの一環として、2022年に発射予定の人工衛星からの「海の色」の測定を計画しています。このミッションは、海洋生物、エアロゾルなどの微視的な生物などが地球のシステムの中で果たす重要な役割を研究する科学者を支援します。

OCI – Ocean Color Instrument
Ocean Color Instrument (OCI)

PACE衛星の中心となる機器は、海洋環境からの紫外線から短波長赤外線(SWIR)にわたる光の特性を測定するOcean Color Instrument (OCI)と呼ばれる高度に進歩した光学分光計です。OCIの計画されたレイアウトおよび原理を示す概略図は、それぞれFig.1(i)およびFig.1(ii)で参照することができます。

従来のNASA衛星センサに対する利点は、そのハイパースペクトル能力、すなわち、350~885nmの間のスペクトル範囲および大きな信号対雑音比(signal-to-noise ratio, SN比)を測定する場合に改善された5nmのスペクトル分解能にあります。さらに、正確な海洋光学的性質を回収するために、OCIは、大気および海洋表面から望ましくない反射率への寄与(例えば、エアロゾル反射率)を除去することができます。特に沿岸地域や濁った水に対するこの大気の補正は、近赤外よりも吸水率が数桁大きいSWIR範囲で実行され、ほぼゼロの海洋反射率を確実にします。

ゴダード宇宙飛行センターのPACEチームは、現在、大気、海洋、さらには陸面を研究する科学者からの性能基準を満たすシステムを開発しています。

計画されている衛星は、地球の北‐南半球を675kmの高度で周回し、毎分360度回転し、±56.5°の視野を有するクロストラック回転望遠鏡で構成されています。いかなる場合でも、望遠鏡はNASAに「サイエンスピクセル」とも呼ばれる1×16の空間ピクセルの配列を記録し、各ピクセルは、天底で測定された1×1kmの地理的エリアになります。さらに、統合のための十分な信号を構築することによって高いSN比を確実にするために、望遠鏡は、回転するときに、「サイエンスピクセル」毎に16回撮像することによって、地球上の同じ地理の場面を長時間にわたって観察します。

海洋からのこの広帯域光信号(16個の空間ピクセルの形態で取得される)は、一次ミラー(軸外放物線)で反射され、デポライズされ、矩形のスリット上に投影されます。その後、ダイクロイックビームスプリッタを用いて、分散型グレーティングが個々の波長をそれぞれ分離し、TDI-CCDセンサ(Time delay integration-charged coupled devices)上に結像する青色と赤色のハイパースペクトルチャネルへ変換・コリメートされます。短波赤外(SWIR)帯は、温度冷却された1×16のディテクタアレイを含む遠隔に配置されたマルチバンドフィルタースペクトログラフを用いて分析されます。光をディテクタアレイに結合するために、0.22の開口数を有する600μmコアサイズのマルチモードファイバーの1×16束が使用されます。これは、望遠鏡からの入射光をディテクタアレイに結合するうえで16個のレンズシステムを使用するよりも優れたアプローチです。精密な機械的アライメントは扱いにくく、誤差を起こしやすくするためです。

コリメートされた光をマルチモードファイバーに効率的に結合するために、NASAは、結合損失を低く保つ非球面マイクロレンズアレイを使用することを決めました。偏光依存の損失を最小限に抑えるために、マルチモードファイバーとマイクロレンズアレイの両方は、0.9~2.3μm波長の広帯域反射防止コーティングを必要としました。目標は、95パーセントの効率でスペクトル全体にわたって光を結合できるようにすることです。

選択プロセス
選択プロセス

初期試験段階でNASAは、市販の、リソグラフィによって製造されたピッチ(レンズ中心間距離)1.3mmの石英材質のマイクロレンズアレイを入手しました。マイクロレンズアレイの性能を決定するために、個々のレンズの表面分布を測定し、所望のレンズ表面分布と比較したところ、リソグラフィレンズの縁部(エッジ)の表面サグプロファイルにかなりの偏差が見られました(Fig.2(i))。市販のソフトウエアZemaxを用いた光学シミュレーションでは、エッジで測定された表面サグの誤差は、像面における球面収差の増加を示しました。これは、ファイバへの結合効率の低下の結果をもたらします。

さらに、非球面マイクロレンズのアレイの場合、マイクロレンズの縁部における、特に表面のサグによる偏差は、Fig.2(iii)に示されるように、連続する小型レンズの間のデッドトランシジョンゾーン(平坦な界面と浅い界面)の形成につながる可能性があります。これらのデッドゾーンは、Fig.3(i)にレイアウトが示されているNASAの実験室ベンチトップイメージング設定を使用して明らかにされました。

NASAの実験室ベンチトップイメージング設定

このセットアップを使用して、望遠鏡の焦点面に位置する矩形スリットを通過した白色光をコリメートし、マイクロレンズアレイを照らすように方向を変えました。マイクロレンズアレイは、望遠鏡の射出瞳の16個の円形画像を生成し、それらはSWIRカメラ上のテレセントリックレンズを使用して画像化されました。得られた画像は、Fig.3(ii)の部分(a)に示すレンズレット間の界面領域からの「迷光」の漏れを示し、その光は光学収差に起因しえます。非球面MLAでは、球面収差およびトランシジョンゾーンの存在は、光ファイバへの光の結合効率の低下の結果をもたらします。

結合効率が改善され得るマイクロレンズアレイを求めて、NASAは精密成形技術を用いて製造されたマイクロレンズアレイをテストすることを決定しました。第2の設計段階でNASAは、1.5mmのピッチを有するINGENERIC社の非球面マイクロレンズアレイ(Fig.4)を評価しました。この評価フェーズでNASAは、機器のレイアウトの変更を補正するために、レンズの曲率半径とアレイピッチの両方を増加させました。

非球面マイクロレンズアレイ

プロジェクトの開始時に、ガラスおよびコーティングの品質が要求事項を満たすことを確実にするために、INGENERIC社はNASAに0.9~2.3μmのスペクトル全体に対して最適化された特殊な反射防止コーティングを備えた平面ガラスサンプルを提供しました。その後のテストにより、透過率の要件が満たされていることが確認されました。

次の工程は、製造されたマイクロレンズアレイの表面形状の精度およびそれらの結像特性を試験することでした。市販のコンフォーカル三次元顕微鏡システム(NanoFocus社製 μsurfシリーズ)を使用して、マイクロレンズアレイの表面形状をINGENERIC社にて測定し、NASAからの設計要件と比較をしました。図2(ii)に示すように、2つのプロファイルを比較すると、NASAの設計要件とINGENERIC社で製造したレンズのプロファイルとの間に優れた一致が示されました。この結果、INGENERIC社が製造したマイクロレンズアレイは、リソグラフィー製法によって製造されたマイクロレンズアレイよりトランシジョンゾーンがほぼ1桁も小さいことがわかりました!さらに、INGENERIC社のマイクロレンズアレイのピッチエラーは1μm未満という非常に高い精度でした。

さらに、定性検査ラボのベンチトップイメージング試験を用いて、NASAは、マイクロレンズアレイ界面からの「光の漏れ」が起きる面積の大幅な減少を観察しました(Fig.3(ii)の (b) 部分)。これもまた、マイクロレンズアレイの性能の改善が定性的に確認できます。
以前に使用されていた他の製造業者からのエッチング製造されたマイクロレンズアレイは、NASAの要件を満たしていませんでしたが、INGENERIC社のマイクロレンズアレイは、当初の予想を大幅に上回りました。

どちらのプロジェクトパートナーにも言えることは、レンズ形状の設計仕様を最高の精度で満たすことができるINGENERIC社の精密成形による非球面マイクロレンズアレイにより優れた性能を発揮していることです。この精密成形技術により、レンズは最適な定性結果を得ることができます。この精度の高さは、ガラスファイバーに結合するときに隣接するマイクロレンズの端部において特に効果を発揮しています。もしこの精度が正確に実現されない場合、光はファイバー間のトランシジョンゾーンで散乱され、結合に使用することができずにロスとなります。ここでも、INGENERIC社のマイクロレンズアレイは見事なほどに機能しています。

プロジェクトの現状
OCIは、メリーランド州のグリーンベルトにあるゴダート宇宙飛行センターで造られる予定です。現在、ファイバー束の機械的調整を最適化するために、部品レベル(ブレッドボード)で実験室の試験が行われています。次のステップは、望遠鏡への接続と、望遠鏡の出口からファイバの入口までの光路全体の検査です。エンジニアリングテストユニットへのインテグレーションは2019年夏に計画されています。そして、この人工衛星は2022年に軌道に入ると予想されています。

まとめ
NASAのPACEプロジェクトのためのOcean Color Instrument(OCI)の開発において、INGENERIC社が精密成形プロセスを使用して製造しているマイクロレンズアレイは、リソグラフィにて製造されたレンズアレイよりもはるかに優れていることが証明されました。INGENERIC社のマイクロレンズアレイは、顧客の当初の希望要件を超えて、海面からの光を衛星の光学システムのガラスファイバーへの光カップリング効率の大幅な向上に貢献しています。

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